鋼橋の疲労と破壊 John W. Fisher著 |
訳者序から機械関係では古くから疲労破壊が問題となっており,研究されてきたが,橋梁関係も鉄道橋ではリベット構造の時代から,その荷重の大きさ,頻度などの影響で疲労現象が現れていた.そこで,例えば1896年のベーカーが作った示方書にも既に,「一列車の通過で応力が正負交番する場合には大きい方の応力に反対符合の小さい方の応力の1/2を加えた応力に見合うように部材断面を決めるべし」とあり,日本の当初の鉄道橋もこれに従って設計されていた.また,構造のデテールについても使用中の橋に現れた疲労損傷の例などを参考として種々改良を試み,疲労に対処した合理的な構造が発達してきた.一方,疲労のメカニズムについても理論的,実験的研究が進歩,蓄積されてきたが,橋梁が溶接主体の構造に変わり,また,鋼材もより高強度のものが使われるようになるに及んで,疲労の面では再び厳しい状況となってきた.従来,道路橋ではあまり疲労損傷の例はなかったが,溶接構造となり,また,自動車交通による荷重の条件が大きさ,頻度ともに厳しさを増して,疲労が原因と認められる変状が生ずるようになった.幸いにして日本では大事故に至った例はないが,局部的にはかなりの数,報告されている.そこで橋梁の疲労に関する研究活動が諸処で行われるようになったが,土木学会においても,鋼構造委員会に小委員会を設け,数年間調査研究活動を続け,まとめを論文集に発表した. さて,リーハイ大学のフィッシャー博士はAASHTOの橋梁関係の示方書作成にも携わっている著名な構造工学者であり,特に構造物の疲労関係では当代の第一人者である.最近本書Fatigue and Fracture in Steel Bridges を著したが,その特徴は疲労の理論よりもむしろケーススタディーを主体としていることである.これまでも博士はこれらを断片的に発表してきたが,今回大きく補足,整理して1冊の本にまとめた.鋼橋関係の疲労損傷の実例,その原因,補修方法等を数多く系統立ってまとめており,かつ,理解しやすく書かれているのは特筆すべきことであり,目下のところ同種のものでこれに勝るものはないと確信する. 本署に述べられている例に類する損傷は一部日本でも既に起きており,橋梁に関する研究者のみでなく,むしろそれ以上に橋梁設計や保守の実務に携わる方々が読まれれば大いに役立つ書物であるのでお薦めしたい. 原書は勿論,英文で書かれており,既に読んだ方も少なからず居られると思うが,その訳本の要望も高く,日本の技術者により広く,容易に読まれるために,翻訳出版の希望をフィッシャー博士に伝えたところ快諾を得た.そこで先に述べた土木学会の疲労変状調査小委員会のメンバーを主体として,分担翻訳し,日本語版を出版することにした.1982年3月にスイス・ローザンヌでIABSE主催の鋼およびコンクリート構造物の疲労に関するコロキウムが開かれた.フィッシャー博士ならびに私たちも出席し,有意義な経験を得たことを思い出すが,博士はその後,引き続きしばらくの間,レマン湖畔に留まって仕上げに励まれたのが本書であると聞く. おわりに本書の翻訳に携わった方々,および出版を引き受けてくださった建設図書に対し心から謝意を表する次第である. 1987年6月 |
詳 細 目 次 |
序論 概説,亀裂進展に対する破壊力学,疲労亀裂進展モデル,累積被害,亀裂の拡大挙動,結語 〔疲労強度の低い構造デテールあるいは大きな欠陥からの構造部材の疲労と破壊〕
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